「じょしぐち」、「おなごくち」?・・・地名の奥は深い・・・ |
先日、難読局名に関するリストをひっそりと公開いたしましたが、これを作るに当たって全国の郵便局の読みがなをひたすら読み続けるというひたすら地味な作業を行いました。
対象としたのは難解な漢字の使われたものだけでなく、通常では予測できない変則的な読み方をするものや、濁点が気になるものなどいろいろです。
とりあえずリストにあるものを暗誦しておけば、現地で局名の読み方を間違って話が通じないとか恥をかくことが防げると思います。
では、本記事においては、難読局名を拾う上で色々と気に掛かった点をまとめていきます。
特にとりとめもない話なので、得られるものはあまりありません。
地名の無駄知識だけは拡がると思います。
◆ 難読というよりも現地語に無理やり漢字を当てた努力を買いたい北海道の地名
北海道と言えば長万部とか女満別とか神居古潭のような独特のアイヌ語地名で溢れかえっていて、極端に難読な地名が多いような印象がありましたが、一つずつの地名を拾いながら、その読み方の正当性を追及していると意外にも漢字をそのまま読めばなんとかなるという地名が多いという気がしてきました。たとえば北見市内に緋牛内という郵便局がありますが、「ひうしない」 と文字の通りに読めばいいだけです。置杵牛は 「おききねうし」 、和寒は 「わっさむ」 、力昼は 「りきびる」 と文字の持つ読みをなぞっただけの読み方となり、別段難読ではないのではないかと思わされましたが、地名の響きがあまりに大和言葉中心の本土の地名の常識からははみ出したものなので難読であるかのような印象を受けてしまいます。しかし、長万部にしても長を 「おさ」 のつもりで当て字しているので、全く本来の読みから外れているというわけではありません。
◆ 北海道の難読局の代表とその由来など
晩生内 (おそきない)
晩という文字に 「時節がおそい」 という意味があるのでそれを地名に使っているあたり詩的センスを感じます。由来は 「オ・ショキ・ナイ」 (川尻が高くなっている川) など諸説。
歌棄 (うたすつ)
歌を棄てるという意味にとれるような表音文字を当てていてこちらも詩的ですが、この「棄」の字を使っている局名はここだけです。元の意味はアイヌ語 「オタ・スッ」 で 「砂浜の根元」 とか。
一已 (いちやん)
一にして 「已む」 (やむ) という意味を組み込んで変な音の地名を漢字化していて、一度聞いたら忘れられない地名ですが、読み方よりも漢字の方が要注意で、「己」(おのれ)でもなく「巳」(み)でもなく、已然形の「已」(い)を使います (これらの文字は全部別物なのに時々混用されていますが) ちなみに「いちやん」だけでなく「いちゃん」「いっちゃん」など複数の読み方があるそうです。由来はアイヌでもそのままで「イチヤン」⇒ 「鮭や鱒の産卵するところ(堀)」 という意味。どうでもいい話ですが、ジャガー横田の旦那さんがここの地区の出身です。
火散布 (ひちりっぷ)
文字面からしても火花が散ってる感じで印象的この地名、火散布の付近には藻散布、渡散布、養老散布など、「散布」 を含んだ地名が固まって存在しています。このチリップの由来はよくわかっていませんが、『浜中町史』によると 「チルップ」 (われわれの掘り出すもの=アサリ) に由来する地名ではないかと言う説があげられています。しかし、関連地名の語順構成から見てみると、「○○のアサリ」 という妙なセンスの地名になってしまうので、未だに定説が見いだせていないようです。
火散布簡易郵便局は散布漁協が運営していて、貯金も可能 |
むかしこの辺にいたアイヌの酋長がイクサンダという名前説 ◇
「イクサプ」 (渡し守) のいる川という意味だという説 ◇
珸瑶瑁 (ごようまい)
日本の最東端にある郵便局。
「コイ・オイ・マイ」 (波の中にある所) という語に由来。
この地に開拓に入った人々が、どこにもないような難解な漢字を宛てようとした結果、このような難読地名が生まれたという裏話があります。北海道の開拓に入った人たちの中には武家崩れで帰農した人達もいたので、教養の高い人たちが独特の漢字を宛てた結果、可読性が困難なものとなっているケースがあります。
台風で屋根が吹き飛んだので最新式に建て替えられた珸瑶瑁郵便局 |
「リ・キ・ピル→リキビリ」(高い・水際からそそり立っている崖)に由来。
つまり、ヒル地名は後で述べるビラ地名と同種で「崖」を意味しているということです。
石狩市には濃昼 (ごきびる) という大変力強い地名もありますが、残念ながら局はありません。
望来 (もうらい)
望来は石狩川の河口から続く砂浜の町。
「ムライ」 もしくは 「モウライ」 (風によって閉じたり・開いたりする事) とするのが松浦説。◇
「モライ」 で (遅く流れる川) の永田説 、モイレ (静かである) がなまった説などいろいろあるようです。
ここは山口県から移住してきた人たちが入植してきた土地で、開拓にあたって新天地に望みをかけるような意味の漢字をあてたのだと思うと印象に残ります。
妹背牛・茂世丑 (もせうし)
北海道地名で「なんたらウシ」となっているやつは、「○○がたくさんいるところ」 というような意味で、モセウシはイラクサの生い茂るところだそうです。美馬牛(びばうし) は沼貝がいっぱいいるところ、富村牛(とむらうし) は水垢の多いところで、つまりは温泉成分が濃い川の所だということ。
天寧 (てんねる)
「テイネ・ル」 で 「濡れている道」 という意味に由来しており、釧路湿原のほとりに位置している。
「テイネ」、つまり、札幌にある手稲は 「濡れてる」 という意味であって、つまりは湿地。
雄信内 (おのぶない)
「オ・ヌプ・ウン・ナイ」(川尻に原野のある川) がなまったものという。◇
JR宗谷本線にある雄信内駅の読みは 「おのっぷない」
雄信内の集落のちかくの原野に 「オヌプナイ」 という地名もあるのでこちらのほうが原語に近いと思われる。
和 (やわら)
開拓者の出身地千葉県 「矢原」 を 開拓の銘として 「和」 の字を当て、やわらと読ませた ◇
渚滑 (しょこつ)
かつて渚滑線 (1985年廃止) という路線があったので読める人も多いと思われる。
「ソー・コッ」 (滝つぼ) の意味。アイヌ語では「ソ」も「ショ」も音の区別がつかないらしく、層雲峡、宗谷、庶路あたりの語頭もだいたい「滝」を意味するものだと解釈できる。
舎熊 (しゃくま)
留萌本線の廃線区間にあった舎熊駅は「しゃぐま」と読んでいた。
魚を干すための棹 「イ・サッケ・クマ」 が訛ったものと言われる。
輪厚 (わっつ)
北広島市にあるかなりインパクトの強い響きの地名。パーキングエリアがあるので道民には有名。
アイヌ語の「ウッ」 (肋骨) に由来とされていますが、なぜウッがワッツになるのかというのはちょっとわかりにくいです。松浦武四郎の著書では「ウツ」と呼んでいるとのことなので、ここ100年くらいで訛っていったことがわかります。
肋骨のように本流の脇に支流が注入してくる地形を示しているとのこと。
床潭 (とこたん)
「トコ・タン」 ではなくて 「ト・コタン」 で 「沼の村」 もしくは 「トゥ・コタン」 で 「廃村」の2通りある。
ここの場合は湖のそばにあるので 「沼の村」 の方だと思われる。
「ト」 とか 「トー」 は 「沼」、「コタン」 は 「集落」 の意味で分解することで解釈できるという。
近くに床潭湖という沼があるトコタン郵便局 |
かなり奇抜な響きの読みですが、松浦武四郎の解釈によると 「トツポウシその名義は二寸三寸位のウグイのことという。この川にウグイが多くいるため名付けられたものか」 ということで、「なんたらウシ」 地名の一種ということがわかります。
活汲 (かっくみ)
鳥のカッコウに由来する地名。 「カッコク・ニ」 でカッコウの居るところという意味。
南茅部郵便局は1986年に解消するまで川汲 (かっくみ) 郵便局を名乗っていましたがこちらも同じ由来の地名であることがわかります。
敏音知 (びんねしり)
「ピン・ネ・シリ」(男の山)に由来、かつて天北線の敏音知駅があったがこちらの読みは 「ぴんねしり」 だった。地名としての敏音知も 「ぴんねしり」 の方が正しいらしい。敏音知の近所に松音知 (マツネシリ=女の山) という地名があって、こちらとセットになっている。郵便局は特定局が1986年廃止、簡易局は1996年廃止。
咲来 (さっくる)
「サ・クル」 で 「夏の通り道」 というなんとも美しい訳がありますが、夏に鮭を採って運ぶ通路の意味があるそうで、札弦 (さっつる) 、北見札久留 (1997年廃止) についても同じ意味だそうです。
咲来郵便局は集落にほとんど住民がいなくなってしまい2005年に廃止されました。
◆ 平を「ビラ」と読ませる地名
平取(びらとり)、古平(ふるびら)、赤平(あかびら)、安平(あびら)など
「平」の字が出てきたら「ビラ」と読ませるのが特徴です。
ビラはもともとピラ(pira)で、崖の意味があるらしく、平取は「ヒラトゥル」=「崖の間」、古平は「フレピラ」=「赤い崖」と解されています。
もともとがピラ(pira)なので、必ずしもビラ(bira)ではなくて、ヒラ(hira)と読ませるパータンもあり、苫前町の上平(uehira:「ウェン・ピラ」=「悪い崖」の意味) や、有名なものでは札幌市内の豊平(tui-pira:「トイ・ピラ」=「崩れる崖」) というような地名もあります。
結局、「平」を「ビラ」と読む北海道の局名は最初に挙げた4つのパターンだけなので、それ以外は「ヒラ」となり、糠平については2000年に局名をぬかびら源泉郷に変えていますのでまぁ除外ということにしときましょう。
◆ 北海道では 「美」 は 「み」 ではなく 「び」
有名どころからいくと美唄(びばい)、美幌(びほろ)、美深(びふか) 、美瑛(びえい)。
マニアックなものだと美国(びくに)、美谷(びや)、美生(びせい)、美里別(びりべつ)、美留和(びるわ)、美馬牛(びばうし)など、北海道の頭文字 「美」 はだいたい 「び」 と読むのが特徴です。
逆に 「み」 と読んでるケースは美流渡 (みると)、美園 (みその) くらいなので、北海道の地名で 「美」 を見かけたら 「び」 と発音しておけばいいと思います。
◆ 北海道の難読地名まとめ
アイヌの文化の中では固有の地名をつけるという習慣がなかったらしく、アイヌ語地名とされているものは地理的・生産的な条件やその地の伝説について叙述したのものが地名として定着ものだと考えられています。
江戸時代に和人の役人が地元のアイヌを捕まえて、その辺にある原野を何というかと問えば、正直であることがモットーのアイヌが 「サッ・ポロ」 (乾いた、大きい) と答えると、そこが 「札幌」 となり、「シ・ペッ」 (大きい川) と答えると 「士別」 とか 「標津」 になるとかいうパターンでどんどん地図に地名が書き込まれていったことが想像されます。
そして、江戸時代まではアイヌ語地名をカタカナで記していたものを、明治に入ってから漢字表記にしていこうという方針になり、古来の地名を次々と漢字化していったという歴史がありますが、同じ条件の所なら同じ呼び方になるので北海道内には同じような読みの地名であふれてしまい、区別のために別の漢字や音を宛てるなどしたため、難解な地名が生まれてしまったようです。
最後に、どうしてこの由来がこの地名になったのか理解できなかった帯広の由来について。
アイヌ語で 「川尻が幾重にも裂けているもの」 を意味する 「オ・ペレペレケ・プ」 が語源。幕末から明治初期の記録には「オペリペリケプ」「オベレベレフ」「オベリベリ」などの記載も残る。いずれも帯広川が札内川に合流する直前で、幾重にも分流することに由来している。
https://ja.wikipedia.org/wiki/帯広市
オペレペレケプ、オペリペリケプ・・・
まるで呪文みたいで覚えられないので、役人達も 「もう帯広でいいわ!」 となったんだと思いますね。
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